【春斎耕甫 六兵衛焼 自作茶碗】 [幕末京焼]
表千家を支える茶家として、『久田家』が有ります。
家祖となる、『久田実房』(宗栄 生々斎)という武人により始まった家で、いい伝えでは、千利休の妹である『宗円』を妻に持つとされます。
この『宗円』は利休より今に繋がる女点前の元となる『婦人点前』を授けられております。
二代は 宗利 受得斎(本間利兵衛)で、千宗旦の娘クレの夫であり、藤村庸軒の兄です。
その後、『四代 不及斎』の二人いる男子が分家し・・・・
次男 『宗悦 凉滴斎』が、『高倉 久田家』として久田半床庵を継承し、代々表千家と縁の深い茶家として、途中に中絶を挟むも、現代迄続いております。
長男 五代目『宗玄 厚比斎』は両替町へ移り『両替 久田家』を興し、主に東海地方に久田流を広めました。
こちらもまた、表千家との深い繋がりの中発展し、十一代では玄々斎の甥を迎えることになり裏千家との縁者ともなるのです。
少し時を前に戻して・・江戸後期頃の、両替久田家の八代目による手作り茶碗をご紹介致しましょう。
【春斎耕甫 六兵衛焼 自作茶碗】
幅 11.8cm
高さ 11.5cm
高台径 5.1cm
製作年代 18世紀末(1771~1799年頃)
『春斎耕甫』の珍しいお茶碗です。
『耕甫』は、七代『宗参』の子の『友之助』の早世により両替久田家を継ぐために『筑田家』から『久田家』の養子として入りました。
1788年の『天明の大火』による両替町屋敷の焼失後、知多半島・大野村(常滑)の豪商である浜島伝右衛門氏の援助を受け再建します。
『耕甫』は本宅再建までの数年、浜島家に滞在しながら知多半島に久田流の点前を広めました。
道具数寄であったようで、同時期の茶器の箱書きも遺されているだけでなく、自身の手による・・・掛物、消息文、花入、茶碗、茶杓、薄器、蓋置等といった自作もの、好み物、が伝世しております。
手工に長じていたと伝わるのは、作品からも裏付けられます。
手慣れた轆轤です。サイズも大きすぎず・・・程よく。
『時しらぬ ふしの高根の 志ら雪も 閑須ミ尓き由類 春のあけぼの』
伊勢物語や新古今和歌集にある歌を元に自身で詠んだものでしょうか。
《時知らぬ富士の高嶺の白雪も》
季節を問わず雪が積もり覆われる富士山の高い峰も
《霞に消ゆる春の曙》
春の日の出前の霞により消え去ってゆく
『霞』がかることで覆われて消える白雪・・・と、春となり暖かくなることと日の出が差してさすがに冬以外でも雪が積もっている富士の峰も雪解けとなっていくこと、が感じられます。
上から。
反対側。
高台脇に、『耕甫造 (花押)』とあります。
いい土味です。
一か所、畳付きに2.5mm程のホツレが有りますが、かなり古いもので永年に渡って大事にされてきております味わいが付いております。
この作品は、『清水焼』です。
高台内には『きよ水』印が押されております。
これは『初代 清水六兵衛』のものです。
春斎耕甫が、初代六兵衛の窯にて焼いたことが解ります。
初代 清水六兵衛 元文3(1738年)~ 寛政11(1799年)
摂津国東五百住村(現・高槻市)生。
幼名は古藤(ことう)栗太郎。寛延年間に京に出て清水焼の『海老屋清兵衛』に師事し、
明和8(1771)年に独立して五条坂の建仁寺町に窯を開き、名を『六兵衛』と改めました。
妙法院宮の御庭焼に黒楽茶碗を供して六目印を受け、天竜寺の桂洲和尚より六角内に清字の印を受ける。土焼風の抹茶器、置物などを製作。号は愚斎。
今では潁川以降、木米からの、保全・長造・仁阿弥といった京焼が中心に語られますが、それより少し前である初代六兵衛の存在は、五条坂系京焼において外せない先駆者であり、重鎮なのです。
そして、その師たる『海老屋清兵衛』は潁川の師でもあり、これこそ清水焼の祖ともいえる巨匠なのですが作品の伝世数の少なさもあり・・・まだまだ研究が進んでおりません。
同じく、弟子である六兵衛も初代に関してはまだまだこれからでしょう。
この『きよ水』印は、『海老屋清兵衛』が使用していた印を『六兵衛』へ授けたと云われております。
それは、正当な継承者であることに他なりません。
江戸前期までの京焼では『茶陶』の名工が存在しましたが、中期は空白ともいえます。
耕甫の時代には、未だ京焼では木米はもちろん、仁阿弥や永楽家ですらまだ時のステージには上がっておりません、六兵衛窯へ赴き作陶したのは自然なことであったことでしょう。
共箱です。
《時知らぬ富士の高嶺の白雪も霞に消ゆる春の曙》
変わらないこと、が変化すること、時の移ろい、が込められている気が致します。
それはまるで、これから始まる京焼イノベーションのあけぼの、をも感じさせるのです。
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2023-04-05 14:56
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