【蒟醤 亀 香合 (啐啄斎 判) 吸江斎 箱】 [茶道具]
【2024年1月17日加筆】
「贔屓(ひいき)」というコトバ・・・普段から、何気なく使っているものです。
しかし、案外と由来は知られておりません。
それは、『贔屓亀(ひきがめ)』という『神獣』の存在から来ているのです。
その辺りの事情は後述するとしまして・・・
今回は、その『贔屓亀』を模した作品のご紹介です。
【蒟醤 亀 香合 (啐啄斎 判)】
幅 6.5cm x 6cm
高さ 3.8cm
製作年代 江戸時代
箱 吸江斎 箱 駒沢利斎 作
とても、品の良い作品です。
『蒟醤(きんま)』により製作されております。
中国の『填漆(てんしつ)』技法が、中国の南方(四川・雲南地方)より・・タイやミャンマーに伝わり、現地の民工芸品として発展し、普及したものが『蒟醤(きんま)』と云われます。
その後、室町時代末期頃に日本に伝来し人気を博したのです。
日本に於きましては、そこから数百年の長き時の流れのあと・・・江戸時代後期に『玉楮 象谷(たまかじぞうこく)』により他の漆技術と共に完成され、以降「讃岐」のお家芸となり知られるようになりました。
竹や木、乾漆などで形成した器物の上に、漆を塗り重ね・・・『蒟醤剣』にて文様を彫り込みます。
その後、彫溝に色漆を埋め込み、表面を研ぎ出すことで文様を表現する技法です。
研ぎ出し方によりハッキリとも、味わい深くとも自在に表現出来ます。
語源は、タイ語の「キン・マーク」であり、噛むという意味の「キン」+「マーク」は檳榔樹(びんろうじゅ)の実を意味します。
現地では、清涼剤として檳榔樹の実と貝灰を混ぜ草の葉に巻いて噛む風習があり、
それらを入れる容器に施された線刻文様も『キンマ』と呼ぶようになったと言われております。
この作品は、そういった現地の実用美術品の渡来ではなく、江戸期に『盒子』として作られたものが渡来したものと思われます。
愛らしいフォルムです。
甲羅の紋様もイイ感じです。
「角」が生えております。「神獣」を模しております。
平べったく作られております。
これには、意味があるのです。
『竜生九子(りゅうせいきゅうし)』という、中国の伝説上の生物があります。
それは・・・竜が生んだ九匹の子で、それぞれ姿形も性格も異なっているといいます。
各々の性格で、様々な場所で各々の活躍を見せますが・・決して、竜になることは出来ませんでした。
これを『竜生九子不成竜』といいます。
いくつか、それを解した書物が伝わっておりますが少しづつ違いもあるようで・・今回は以下の文献を引用致します。
『升庵外集』(楊慎, 1488~1559年)『天禄識余』の説
1. 贔屓(ひき)
形状は亀に似ている。重きを負うことを好む。
2. 螭吻(ちふん)
形状は獣に似ている。遠きを望むことを好む。
3. 蒲牢(ほろう)
形状は竜に似ている。吼えることを好む。
4. 狴犴(へいかん)
形状は虎に似ている。力を好む。または悪人を裁くを好む。
5. 饕餮(とうてつ)
形状は獣に似ている。飲食を好む。
6. (はか)
形状は魚に似ている。水を好む。
7. (がいさい)
形状は竜に似ている。殺すことを好む。
8. (さんげい)
形状は獅子に似ている。煙や火を好む。
9. (しょうず)
形状は貝にも蛙にも似ている。閉じることを好む。
(※6~9の漢字が、入力投稿するとエラーを起こしましたので、平仮名で申し訳ございません。)
今回の作品のモチーフは、『贔屓亀』なのです。
中国では、『贔屓亀』の石像が各地で設置されております。その後、朝鮮半島や日本にも広まったようです。
それらは『重たい柱』を背負った様子になっているのです。
各地に存在しますが、こちらが一番今回の作品に近いでしょうか?
『贔屓』は古くは・・『贔屭』という文字でした。
「贔」は「貝」が三つで、これは財貨が多くあることを表します。
「屭」はその「贔」を「尸」の下に置いたものであろ、財貨を多く抱えることを表します。
「この財貨を多く抱える」ということが、「大きな荷物を背負う」ということに繋がり・・・石像などでその様子が表され、「盛んに力を使う」「鼻息を荒くして働く」などの意味をもつようになったそうです。
「ひき」の音は、中国語で力んだ時の擬音語からきております。
長くなりましたが・・・なので、「重たいもの」を背負っているので平べったいのです。
そして、「龍の子」であったことから、頭に「耳」が生えているのです。
「鱗」の紋様らしき意匠もありますね。
この作品の蓋裏には、『啐啄斎(そったくさい)』の花押が在ります。
表千家8代目、『件翁宗左 啐啄斎(そったくさい)』 (1744生~1808年没)
寛政~文化年間頃です。
贔屓亀の文献が現れるのは1500年代前半になります。
作品の造りの丁寧さからも・・おそらく江戸時代前期頃に渡来、ないし注文したものと推測されます。
箱は、表千家十代『祥翁 吸江斎(きゅうこうさい)』です。
おそらく35歳頃の筆でしょう。
型取って仕立てられた『仕覆』が添います。
利斎は九代目でしょう。
最後に・・・・「贔屓の引き倒し」という諺がございます。
「ある者を贔屓しすぎると、かえってその者の不利となって、為にはならない」
という意味であり・・・それは、『贔屓亀』の上に載っている柱の土台となる『贔屓』を引っぱると、柱が倒れるいうことから来ているのです!
さて、色んなキーワードが含まれたこの作品、如何様にもお愉しみ下さいませ☆
※ご成約済みです。
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「贔屓(ひいき)」というコトバ・・・普段から、何気なく使っているものです。
しかし、案外と由来は知られておりません。
それは、『贔屓亀(ひきがめ)』という『神獣』の存在から来ているのです。
その辺りの事情は後述するとしまして・・・
今回は、その『贔屓亀』を模した作品のご紹介です。
【蒟醤 亀 香合 (啐啄斎 判)】
幅 6.5cm x 6cm
高さ 3.8cm
製作年代 江戸時代
箱 吸江斎 箱 駒沢利斎 作
とても、品の良い作品です。
『蒟醤(きんま)』により製作されております。
中国の『填漆(てんしつ)』技法が、中国の南方(四川・雲南地方)より・・タイやミャンマーに伝わり、現地の民工芸品として発展し、普及したものが『蒟醤(きんま)』と云われます。
その後、室町時代末期頃に日本に伝来し人気を博したのです。
日本に於きましては、そこから数百年の長き時の流れのあと・・・江戸時代後期に『玉楮 象谷(たまかじぞうこく)』により他の漆技術と共に完成され、以降「讃岐」のお家芸となり知られるようになりました。
竹や木、乾漆などで形成した器物の上に、漆を塗り重ね・・・『蒟醤剣』にて文様を彫り込みます。
その後、彫溝に色漆を埋め込み、表面を研ぎ出すことで文様を表現する技法です。
研ぎ出し方によりハッキリとも、味わい深くとも自在に表現出来ます。
語源は、タイ語の「キン・マーク」であり、噛むという意味の「キン」+「マーク」は檳榔樹(びんろうじゅ)の実を意味します。
現地では、清涼剤として檳榔樹の実と貝灰を混ぜ草の葉に巻いて噛む風習があり、
それらを入れる容器に施された線刻文様も『キンマ』と呼ぶようになったと言われております。
この作品は、そういった現地の実用美術品の渡来ではなく、江戸期に『盒子』として作られたものが渡来したものと思われます。
愛らしいフォルムです。
甲羅の紋様もイイ感じです。
「角」が生えております。「神獣」を模しております。
平べったく作られております。
これには、意味があるのです。
『竜生九子(りゅうせいきゅうし)』という、中国の伝説上の生物があります。
それは・・・竜が生んだ九匹の子で、それぞれ姿形も性格も異なっているといいます。
各々の性格で、様々な場所で各々の活躍を見せますが・・決して、竜になることは出来ませんでした。
これを『竜生九子不成竜』といいます。
いくつか、それを解した書物が伝わっておりますが少しづつ違いもあるようで・・今回は以下の文献を引用致します。
『升庵外集』(楊慎, 1488~1559年)『天禄識余』の説
1. 贔屓(ひき)
形状は亀に似ている。重きを負うことを好む。
2. 螭吻(ちふん)
形状は獣に似ている。遠きを望むことを好む。
3. 蒲牢(ほろう)
形状は竜に似ている。吼えることを好む。
4. 狴犴(へいかん)
形状は虎に似ている。力を好む。または悪人を裁くを好む。
5. 饕餮(とうてつ)
形状は獣に似ている。飲食を好む。
6. (はか)
形状は魚に似ている。水を好む。
7. (がいさい)
形状は竜に似ている。殺すことを好む。
8. (さんげい)
形状は獅子に似ている。煙や火を好む。
9. (しょうず)
形状は貝にも蛙にも似ている。閉じることを好む。
(※6~9の漢字が、入力投稿するとエラーを起こしましたので、平仮名で申し訳ございません。)
今回の作品のモチーフは、『贔屓亀』なのです。
中国では、『贔屓亀』の石像が各地で設置されております。その後、朝鮮半島や日本にも広まったようです。
それらは『重たい柱』を背負った様子になっているのです。
各地に存在しますが、こちらが一番今回の作品に近いでしょうか?
『贔屓』は古くは・・『贔屭』という文字でした。
「贔」は「貝」が三つで、これは財貨が多くあることを表します。
「屭」はその「贔」を「尸」の下に置いたものであろ、財貨を多く抱えることを表します。
「この財貨を多く抱える」ということが、「大きな荷物を背負う」ということに繋がり・・・石像などでその様子が表され、「盛んに力を使う」「鼻息を荒くして働く」などの意味をもつようになったそうです。
「ひき」の音は、中国語で力んだ時の擬音語からきております。
長くなりましたが・・・なので、「重たいもの」を背負っているので平べったいのです。
そして、「龍の子」であったことから、頭に「耳」が生えているのです。
「鱗」の紋様らしき意匠もありますね。
この作品の蓋裏には、『啐啄斎(そったくさい)』の花押が在ります。
表千家8代目、『件翁宗左 啐啄斎(そったくさい)』 (1744生~1808年没)
寛政~文化年間頃です。
贔屓亀の文献が現れるのは1500年代前半になります。
作品の造りの丁寧さからも・・おそらく江戸時代前期頃に渡来、ないし注文したものと推測されます。
箱は、表千家十代『祥翁 吸江斎(きゅうこうさい)』です。
おそらく35歳頃の筆でしょう。
型取って仕立てられた『仕覆』が添います。
利斎は九代目でしょう。
最後に・・・・「贔屓の引き倒し」という諺がございます。
「ある者を贔屓しすぎると、かえってその者の不利となって、為にはならない」
という意味であり・・・それは、『贔屓亀』の上に載っている柱の土台となる『贔屓』を引っぱると、柱が倒れるいうことから来ているのです!
さて、色んなキーワードが含まれたこの作品、如何様にもお愉しみ下さいませ☆
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