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【永楽保全(善一郎) 金襴手 酒飲】 [幕末京焼]

今回は、天保時代(1830~1843年)のお話になります。


天保の大飢饉により、世の中はとんでもない餓死者が発生しました。

一揆も多発し、『地方の米』による収入が柱となっていた幕府の財政基盤は、危機に瀕していたのです。


12代将軍『家慶(いえよし)』に代を譲り『大御所』として君臨していた11代の『家斉(いえなり)』が天保12年に没した後、かねてより様々な施策を上げるものの阻まれ続けていた『老中 水野忠邦』がついに実行したのが『天保の改革』です。


改革の主な内容は、『財政の引き締め』『物価の抑制』『農村の復興のための人返の法』でした。



1841年 倹約令の発令、歌舞伎3座を浅草へ移動、株仲間の解散

1843年 人返しの法 上知令


この他、通貨の質を下げて倹約したりもありましたが、さらなるインフレを起こし・・全ての施策は・もはや、根本的な体制や、出来上がった世の中の仕組みに対しての『対処療法』でしかなく、全てが裏目に出てしまった為、失敗に終わってしまうのです。

その中でも『大塩平八郎の乱』は、世の中に衝撃を与えました。

後世からは、明らかな失策であることは自明の理なのですが、その時代、その責務を担った当人たちが、いかに追い込まれていたか、もうどうすることも出来なかった中で最善を尽くそうとした、というのは理解できなくは無いのです。


多大な反発の中、水野忠邦が失脚し・・・天保の改革は天保時代と共に終焉を迎えました。

(反したひとり・・・遠山景元は、のちに遠山の金さんとして語り継がれます)


その時に、廃止となったひとつに『奢侈禁止令』というものがあります。


このことで、制限を受けていた製作活動が、ようやく自由となって、生み出された・・・まさに開放の美ともいうべき作品をご紹介致します。




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【永楽保全(善一郎) 金襴手 酒飲】


幅   6.2cm

高さ  4cm

製作年代 天保14(1843)~弘化4(1847)年頃

共箱



大変、上質に造られたものです。


薄造りな上部に対して、腰に至るあたりから徐々に肉厚が増していくことで、重量バランスの良さ・・・手に取った時のバランスが絶妙です。


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外側は、『鳳凰文』です。


金箔を貼りつける『和全』に対して、『金泥』により緻密に描かれているのが保全です。


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口は輪花形が意匠を引き立ててますね。


内側は、『蓮文』になっており、極楽浄土を現しております。


この内外の組み合わせ・・・平等院のようです。


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内側底には、『染付』にて『小禽』が三匹。


江戸期には『盃』型が多い中、このように『ぐい呑み』形状は少なめです。

そして、描きにくい内側まできちんと筆が入っているのがすごいです。


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『大日本永楽造』



この作品は、永楽保全の中でも『中期』にあたる『善一郎』時代です。


天保12年に養父である『了全』が没した後であることと、和全へ家督を譲ったことでの『家』からの解放、そして、紀州徳川家偕楽園焼からの流れを利用したことからの『土風炉師』からの脱却、『奢侈禁止令』の廃止による製作制限の撤廃・・・という、3つの呪縛から解放されたことにより、保全が自由に最高傑作を作れた保全の黄金時代と言われます。



その頃の資料でこのようなものが遺されております。


『天保十四年七月二十二日  善五郎病気に付、町内のみ隠居致度、千家御聞済の由。善五郎事、善一郎。仙太郎事、善五郎・・・』


和全へ家督をお譲り、町内では隠居となりますが他で善一郎という名で仕事を続けます。これは千家の認可を得たことです。

ということを書かれており、のちに長く続く和全との不仲の原因となる、『善一郎家』を並立させることの宣言書でありました。


それはさておき・・・善一郎時代には三井家にも豪華絢爛な優品が遺されているのです。



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この作品も、かなりの名家に収まっていたようで、箱も保全の共紐もあるきちんとしたもの、そして包布も蔵家の朱印まであります。


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普通に、今、目にし・・・手に取ることのできる作品たちは、それぞれが歴史の様々な背景の元に生み出されたものであり、奇跡のタイムマシーンで現在、ここに存在するのです。


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※御成約済みです。


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